間接費管理モジュール(CO-OM)において重要なマスタである内部指図について解説します。
知りたい情報をチェック
内部指図(Internal Order)とは

内部指図とは、特定のプロジェクトやイベントで発生したコストを管理するためのCOオブジェクトである。
SAPの間接費管理モジュール(CO-OM)には、原価センタ会計(CO-OM-CCA)と内部指図会計(CO-OM-OPA)の2つが存在し、前者は原価センタでコストを管理する一方で、後者は内部指図でコストを管理する。
原価センタは企業の組織単位で作成されることが多い一方で、内部指図やプロジェクトやイベント単位で作成されることが多い。
原価センタ会計と内部指図会計の比較
項目 | 原価センタ会計 | 内部指図会計 |
COオブジェクト | 原価センタ | 内部指図 |
目的 | 組織・部門ごとのコスト管理 | プロジェクトやイベントごとの費用管理 |
使用例 | 製造、営業、人事、総務など | 新規資産取得、研究開発、広報活動など |
コスト発生の期間 | 長期間(通常は会計年度単位) | 短~中期間(案件単位) |
責任所在 | 実組織 | 案件の管轄部門 |
内部指図の使用ケース
指図 | 指図の定義 | 具体例 |
新規資産取得 | 企業が新しい固定資産(設備・機器・建物など)を取得する際に発生する費用を集計・管理するための指図。 | 新しい生産ラインの機械設備の購入、オフィスビルの建設費用、新規のITインフラ(サーバー・ネットワーク機器)導入費用の管理。 |
既存資産改善 | 既存の固定資産(設備・施設など)の改修・改善・アップグレードに関する費用を管理する指図。 | 工場設備の生産能力向上のための改修、社内ネットワークシステムのアップグレード、建物の耐震補強工事。 |
人材開発 | 従業員のスキル向上や能力開発にかかる研修・教育費用を管理する指図。 | 社内研修プログラムの実施、外部講師によるセミナー開催、資格取得支援制度に基づく研修費用の管理。 |
研究開発 | 新技術や新製品の開発に伴う研究・試作・テストなどの費用を管理する指図。 | 新素材の開発プロジェクト、試作車両の製作、医薬品の臨床試験費用の管理。 |
販促活動 | 製品・サービスの販売促進を目的としたマーケティング・広告・キャンペーンなどの費用を管理する指図。 | 新商品のプロモーションイベントの開催、テレビCM・オンライン広告の出稿、割引キャンペーンの運営費用。 |
広報活動 | 企業ブランドの向上や社会的な認知度向上を目的とした広報関連の費用を管理する指図。 | 企業の社会貢献活動(CSR)の実施、新聞・雑誌・Webメディアへの広報記事の掲載、プレスリリース作成・配信。 |
採用活動 | 新卒・中途採用に関する人材確保活動にかかる費用を管理する指図。 | 求人広告の掲載、人材紹介会社への手数料、採用イベントの開催、新入社員の入社オリエンテーション。 |
実績指図と統計指図

内部指図マスタの制御データタブにある「統計指図」フラグにチェックをつけると統計転記となり、チェックをつけないと実績転記となる。
FI伝票に原価センタと内部指図の2つのコストオブジェクトが入力されている場合は、上記図のような転記となる。

内部指図の決済フロー例

固定資産への決済

内部指図に費用を計上し、費用計上月に指図決済により建設仮勘定に金額をためていく。建物等の固定資産が完成したタイミングで、指図決済により建設仮勘定を固定資産に振り替える。
なお、会計仕訳のフローは下記の通りである。

原価センタへの決済

内部指図に費用を計上し、指図決済によって費用を内部指図から原価センタに振り替える。
内部指図の運用フロー

内部指図登録(Tr-cd:KO02)
内部指図を登録する。
第一画面/ヘッダ画面
第一画面では指図タイプを指定し、第二画面では各項目を入力していく。指図タイプは、内部指図の使用ケースの粒度で設定するのが一般的である。
【各タブの説明】 ■割当 内部指図とその他の管理オブジェクト(管理領域、責任原価センタ、利益センタ、WBS要素など)を紐付けるタブ。 ■制御データ 指図のシステム/ユーザステータスや統計転記 or Notの設定を行うタブ。 また、収益転記フラグにチェックをつけると、費用だけでなく収益も管理されるようになり、最終的にCO-PA(収益性分析)への決済が可能。 ■期末処理 期末処理に関連する下記項目を設定するタブ。 ・結果分析キー ・原価計算表 ・間接費キー ・金利プロファイル
決済規則画面
センダとなる内部指図から、レシーバ(費用の決済先)となるコストオブジェクトやその他条件の設定を行う。
【各項目の説明】 ■勘定割当カテゴリ レシーバとするオブジェクトのカテゴリ(勘定コード、固定資産、指図、原価センタ、CO-PAなど)を指定する。 ■決済レシーバ レシーバとするオブジェクト(勘定コード、固定資産、指図、原価センタ、CO-PAなど)の具体的な値を指定する。 ■% レシーバに対して、指図に計上された費用をいくら配分するか指定する。 ■決済タイプ 決済タイプを指定する。 <FUL:全額決済> 指図残高を全額決済する。 <PER:期間決済> 前期の指図残高が残っていても、今期の残高のみを決済する。
内部指図リリース(Tr-cd:KO02)
内部指図をリリースする。
上部メニューバーの「追加 > 編集 > リリース」より指図のリリースが可能。システムステータスが「REL」に変更され、指図へ費用計上が可能となる。
なお、指図ステータスは制御データタブより参照可能である。
【指図ステータスについて】 内部指図のステータスには、システムステータスとユーザステータスの2種類が存在する。いずれも、ステータスに応じて処理可能なトランザクションが制御可能。指図に両方のステータスが付与されている場合は、両方とも許可されているトランザクションしか処理できない。 ■システムステータス SAP標準では下記4つが用意されている。 ※Tr-Cd:BS22から照会可能 CRTD:登録済(Created) REL:リリース済(Released) TECO:技術的完了(Technically Completed) CMPL::終了(Closed) ■ユーザステータス(ステータスプロファイル) ※Tr-Cd:BS02から照会可能 カスタマイズで自由に設定が可能。
内部指図へコスト計上
内部指図に対してコストを計上する。
コスト計上はロジモジュール経由やFI直転記など様々な登録ルートがある。
また、Tr-cd:KB11N(一次原価のマニュアル再転記入力)によって、内部指図に対してFI伝票を経由せず一次原価を計上することも可能。
計上されたコストは、上部メニューバーの「追加 > 補足 > 原価分析」や、Tr-cd:KOB1(指図の実際原価明細照会)などから確認する。
内部指図決済(Tr-cd:KO88)
決済処理により、内部指図に計上したコストをレシーバに対して配賦する。
レシーバは決済規則画面で入力したオブジェクト勘定コード、固定資産、指図、原価センタ、CO-PAなど)が該当する。
内部指図を一括決済したい場合は、Tr-cd:KO8Gを使用する。
※予めTr-cd:KOK2から「選択バリアント」を設定しておく必要あり
内部指図クローズ(Tr-cd:KO02)
内部指図をクローズする。
上部メニューバーの「追加 > 編集 > 技術的完了 / 終了」より指図のクローズが可能。システムステータスが「TECO」「CMPL」に変更される。
【TECO】
内部指図に対して費用の計上が完了しており、決済処理待ちのステータスとして使用されるのが一般的。
※システム上、追加の費用計上や決済処理が可能【CMPL】
決済処理が完了した後に、本ステータスに変更するのが一般的。
※システム上、追加の費用計上や決済処理は不可
内部指図関連トランザクションコード

Tr-cd | テキスト |
KO01 | 内部指図登録 |
KO02 | 内部指図変更 |
KO03 | 内部指図照会 |
KOK2 | 内部指図一括処理 |
KOK3 | 内部指図一括照会 |
KO88 | 実績決済:指図(個別処理) |
KO8G | 実績決済:指図(一括処理) |
KOH1 | 指図グループ登録 |
KOH2 | 指図グループ変更 |
KOH3 | 指図グループ照会 |
KOB1 | 指図の実際原価明細照会 |
S_ALR_87013001 | 指図:実績(年度比較) |
S_ALR_87012993 | 指図:実績/計画/差異 |
KOT2_OPA KOAO | 指図タイプ定義 |
KONK | 指図の番号範囲定義 |
OKO6 | 配分構造の定義 |
OKO7 | 決済プロファイルの定義 |
決済プロファイルは指図タイプに割り当てられるが、決済プロファイルで決済可能なレシーバ(勘定コード、原価センタ、WBS要素、固定資産など)を定義する。
また、決済においては下記3つのカスタマイズも重要な役割を担う。
・配分構造
・PA決済構造
・元構造
内部指図関連テーブル

テーブルID | テキスト |
COBK | CO対象:伝票ヘッダ |
AUFK | 指図マスタデータ |
COBRA | 指図決済の決済規則 |
COBRB | 配賦規則 決済規則 指図決済 |
JEST | 個別オブジェクトステータス |
JCDS | システム/ユーザステータス変更伝票(JEST) |
TJ02T | ステータステキスト |
T003O | 指図タイプ |
T003P | 指図タイプテキスト |
以上。
SAPコンサルタントとして長年にわたり複数のPJに携わってきたプロによる一冊。
本書では宅配ピザ屋を例に、会社の業務とそれに紐づく各SAPモジュールの説明が丁寧にされており、この一冊で体系的に業務とSAPの基礎知識を身に付けることが可能です。
これからSAPの業務に携わる人や、改めてSAPの全体観を把握したい人など、初心者~中級者まで自信を持っておすすめします。
コメントを残す